地頭力

 某上場企業がマネジメント人材を相当数募集している。売上げも社員数も倍々ゲームで急成長中なため、深刻なマネジメント不足に陥っているのが募集背景。欲しい人材は、ズバリ、『地頭が良い』『一流コンサルファーム出身者』とのこと。
 『地頭が良い』という言葉はどうも曲者で、どうも『地頭が良い』と自認している方々、または『地頭が良い』事を商売道具にしている方々が使っているようで、その定義も明確に固まっているものがある訳でもなく、都合の良い時に都合良く使われているように思う。
 僕が最初に『地頭』という言葉を聞いたのは、20年ぐらい前に某世界的な戦略コンサル会社のコンサルタントからだった。会社が雇ったコンサルタントのカウンターパートを僕がしていたときだ。彼らのウリは、僕らから知識やアイデアを吸収した上で、体系的な手法で分析・整理し、トップマネジメントに戦略を提示することだった。そこでコンサルタントの『地頭が良い』事は必須要件であり、それが付加価値の元ということであった。
 このとき、妙に説得力のあるこの言葉に納得しつつも、正直よくはわかっていなかった。 
 僕自身はその後独立しコンサル会社を経営したが、これを時折使わせてもらった。なんとなくコンサルっぽい言葉が良かったのと、当時はまだ新鮮な響きをもっていたからだ。

 一般には『頭が良い』と言う。様々な意味合いを持つ広い言葉である。記憶力、思考力、機転、コミュニケーション能力、発想力、表現力などなど、いろいろな意味で使われる。
 これが『地頭が良い』と『地』がつくだけで、何か特別なもののように聞こえてくるから便利な言葉である。

 学者、医者、弁護士から、これらの職につくために必要な力として、又は人を評価する言葉として『地頭が良い』を聞いたことはない。
 政治家から聞いたこともない。
 成功しているオーナー経営者からも聞いたことはない。
 成功している雇われ経営者や幹部からも聞いたことは殆どない。(除く、コンサル出身者)

 成功しているコンサルタントからは良く聞いた。

 最初に『地頭』を聞いてからおよそ20年たった。コンサル業界では一般的な言葉になったようだ。最近では会社員やコンサル志向の若者向けの地頭本も出ていてジワジワと広がってきているようようだ。
 僕自身は、コンサルタントのキャッチコピーとして『地頭が良い』があると、理解しておくことにする。