#05 2007年 ITエンジニアに求められるもの(その2)

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。

『サラリーマンでもスポーツ選手や映画俳優のような稼ぎ方をしなければならない。』
『それがハイテク王国シリコンバレーの実態だ。』
   【引用:平成18年12月21日日経新聞デジタル時評】

    

人材マネジメント手法とのミスマッチ

『サラリーマンでもスポーツ選手や芸能人のような稼ぎ方』が『可能な時代』には、日本もなってきている。金融会社に勤めるサラリーマンが日本一の納税者になったり、サラリーマンエンジニアが画期的な発明により高額な報酬を得たり、ベンチャー企業に勤めるエンジニアが上場に伴いストックオプションを行使していきなりお金持ちになったりしてニュースになったりする。しかし、それがより一般化、普遍化していく勢いは感じられない。

経営者や人生の成功者は、概して上昇志向が極めて強く、目標を達成すること、競争に勝ち続けていくことに喜びを感じる人が多く、彼らは常に訓話や成功物語の中で「目的を持て。達成せよ。そして一新不乱に努力せよ。競争に勝て。」といったメッセージを発している。それに呼応するように、会社の方でも社員の上昇志向を活用してモチベーションを引き出し、がむしゃらに働かせ短期間に成果を出すというマネジメントをしているところも多くある。

それに触発され、乗っかりながら努力を続け、結果を出し、企業に好業績をもたらした人もいる。

しかし、この人材マネジメント手法は、全ての企業及び従業員に適用できる方法とは思えない。やはりシリコンバレーやコンサル会社等のような特殊な環境、会社で、特別な人たちを相手に通用するマネジメント手法と思わざるを得ない。

特別な人とは、『上昇志向が強くめいっぱい努力が続けられる少数な人々』である。人生の成功者になることを強烈に求め、努力とリスクを厭わない人々と言ってもいい。

このマネジメント手法では、上昇志向があっても努力が続けられない大多数の人はやがて燃え尽きるか、焦ってばかりいるか、努力できない自分に嫌気がさすかとなり、あまり健康的な人生は送れない。ましてや、上昇志向がそんなには強くない人たちに対してはなんの効果もない。

ITエンジニアの新しいキャリア観、仕事の仕方

私が知っているITエンジニアの大多数は『プロスポーツ選手のように稼げ』には心を動かされないとも思っている。ITエンジニア全員が強烈な上昇志向を持っているわけでもないし、他人より出世することを、人生の第一番目の目標にはしていない。特に若い世代ほどそうだという気がしている。むしろ、お金についてプロスポーツ選手を引き合いに出されると違和感を持ったり、反発を感じたりする人の方が多いのではないかと思っている。彼らは違った価値観で仕事、キャリア、会社を見ているのだ。

インターネット、オープンソースの時代のITエンジニアは、競争原理のみで技術力を向上させ、新サービスを生み出しているわけではない。あると便利なものを自ら創り、世に公表し、仲間を募り、みんなでブラッシュアップするというスタイルが多くなってきている。たった一人でイチロー選手みたいな孤高の努力をできないことも知っているし、孤高では行ける場所も限られてくることも知っている。

大学の研究室の延長にあるようなオープンで相互に学び尊重しあえる場が、知識欲を満たし、仕事に熱中でき、自分自身の進化を実感でき、世界への貢献ができると体感してしまっているからだ。

リスク対応力

IT業界の変革のスピードは早く、中長期の事業計画を正確に立てることが難しくなってきていて、せいぜい1年後ぐらいまでの予測にとどめているところも多くなった。1年後には、業績不振によるリストラ、極端な場合会社が破綻してしまうことさえある。さらには、規制緩和、技術革新、安い外国製品の流入、安い外国での生産などで市場が変化してしまい、絶好調のビジネスモデルがあっというまに追いつかれ駆逐され、市場から撤退、あるいは事業ごと売却ということもありえる時代なのだ。

当然、会社の技術部門も人事部門も、数年後のIT人材ポートフォリオを明確に提示できない。そんな会社でITエンジニアは今働いているのである。事務系と比べ、ITエンジニアは失業リスクの高い職種と言えるかもしれない。

技術職の方が事務系職種より高い給料を設定しているIT企業は多い。その専門性に対しての対価というのが理屈ではあるが、リスク対応費用と言えなくもない。ITエンジニアはこのリスクに対応していく能力が求められる。

長期的に固定化されたキャリアプランのリスク

こんな時代に、数年以上も前に立てたITエンジニアとしてのキャリアプランを固定的なものにしてしまい努力を注ぎ続けるのは、むしろ時代に淘汰・消費される人材になってしまうリスクが毎日増大する生き方のように思える。
何を指針に、様々なことと折り合いをつきて生きていくのか? 自分が勤める会社、自分のキャリアプラン、自分の専門技術をどう選択をしていくのか? はたまた、そんなことおかまいなしに直観的に好きなことだけをやりつづけるのか?