ブラック・スワン

ブラックスワンとは
従来全ての白鳥が白色と信じられていたが、オーストラリアで黒い白鳥が発見されたことで、鳥類学者に大きな驚きを与えた。従来からの知見では、黒い白鳥はいないとされていたためだ。黒い白鳥の発見により、鳥類学者の常識が大きく崩れることになった。
タレブ氏は、この出来事を元に、確率論や従来からの知識・経験からでは予測できない極端な現象が発生し、その現象が人々に多大な影響を与えることを総称して「ブラックスワン理論」と呼んだ。『ヘッジファンド用語集より』


 『世の中に確実なものは無い。いい加減なもんだ。思うように生きろ。』


 僕が子供の頃、父は酔っぱらってこんなことを言うことがあった。
 県庁に勤め、家では家父長主義的で『男たるもの云々』には厳しい父だと子供の僕には見えていたので、『なんかいつもと違うな』と思ったので記憶に残っている。
 旧制中学校で終戦を迎えた父は、誰もが勝つと信じていた(信じ込まされていた)日本が負け、鬼畜米英に殺されもせず、天皇が君主から国民の象徴になり、戦争放棄憲法に盛り込まれたり、女性に選挙権が与えられるなど、世の中のしくみや価値観が終戦と同時に全く変わってしまった混乱の中で思春期を過ごした。その思い出話の締めくくりとして教訓みたいに話していたと思う。


 『ブラック・スワン』の著者タレブ氏も、レバノン生まれで内戦が勃発した時に15歳だった。平和で穏やかな天国から、一瞬にして地獄への転落を経験した。また、トレーダーとしていくつかの『ブラック・スワン』を経験し、一方、傍らで確率や偶然や不確実性の研究を続けてきた。


『実証的懐疑主義者』と自称していて、説明のつく線形の範囲でしかものを考えない学者、専門家、マスコミ等を、豊富な反例をあげて痛快なまでに批判している。


 わからない・見えない・起こったことのないリスク・チャンスは軽視し、わかる・見える・起こったことのあるリスク・チャンスは過剰評価をしてしまうのは、人間の一般的な傾向でありとも述べている。

 かといって、リスクテークはするなとか、保険に目一杯入りなさいとは言っていない。

 著者自身は、
 ・教養俗物(もっともらしい俗物)の連中が信じていることには懐疑的。
 ・ランダム性の高いところでは懐疑的で、それが低いところでは信じやすくなる。
 ・小さな失敗は心配しないが、大きな失敗は心配する。
 ・たちの悪い隠れたリスクを心配する。テロより糖尿病を心配する。
 とのことだ。


 ブラックスワンに立ち向かうヒントが最後に少しだけ書いてある。

・自分でつくったゲームなら、だいたい負け犬にはならない。


・ただ生きているだけでものすごく運がいいのを、私たちはすぐに忘れてしまう。それ自体がとても稀な事象であり、ものすごく小さな確率でたまたま起こったことなのだ。


・あなた自身が黒い白鳥なのだ。


 この本を上下巻とも読むのは相当に疲れる。奇想天外にあちこちに話題が飛び、多くの学者や専門家の欠点を容赦なくたたく。そして『ブラックスワン』を理解していない輩が多すぎると繰り返されるからだ。

 この本が売れたのは、100年に一度の今だからかも知れない。