#25 デキルヤツになるために

 小学生高学年から中学3年まで、僕の勉強机にはりっぱな楯があった。木製の黒パネルに金色の文字で【 努力 根性 忍耐 】と書いてあった。兄が修学旅行で買ってきてくれたもので、特に気に入った訳でもなかったが、せっかくだからと自分の勉強机に置いていた。
 その時代、僕ら小中高生男子は、熱血スポーツ根性漫画・アニメに夢中だった。『巨人の星』、『あしたのジョー』、『赤き血のイレブン』、『柔道一直線』、『空手バカ一代』などなど。主人公たちはストイックに練習に打ち込み、幾多の困難も乗り越え、ライバルと戦っていく。結果が良くても悪くても、更に自分を追い込み高みを目指していく。少年達は主人公の生き方に強くあこがれた。
 さて、6年生くらいからたまには"勉強"するために机に座るようになる。その度に【 努力 根性 忍耐 】の楯がどーんと正面にある。金色の文字が蛍光灯の光を受けてピカピカとしながら目に入ってくる。何度も繰り返ししているうちに、だんだんと星飛雄馬や赤井信吾達のスポ根漫画の主人公のストーリーと金色の文字が重なっていき、彼等みたいにデキルヤツになるには、これが必要なんだと確信するようになる。

 こうして【 努力 根性 忍耐 】が僕の最初の座右の銘になった。

 高校に入り家を離れ寮生活を始めた。大部屋で割り当てられた机と本棚は小さかった。楯など置くスペースはとれないし、大部屋でみんなから見られる机の上には恥ずかしくて置けなかった。結局、楯は自宅に置いていくことにした。そうして、僕の最初の座右の銘はだんだんと薄れていった。
 勉強とサッカーが中心の生活の中で、『鍛えられた頭脳と肉体』などと、座右の銘にしては極めて具体的な言葉を口走るようになった。大学になると『やせたソクラテスも付け加えて口走るようになった。

 社会人になり、結婚もして、多少は世の中のことがわかるようになってくると、『愛と勇気とサムマネー』と言うようになる。
 やがてサラリーマンの悲哀や組織の不条理に出くわし『捨てる神あれば拾う神あり』と嘯きながら、いつか認められると信じて仕事に打ち込むようになる。
 そして、思いきって起業したときも、これらの言葉を信じて、仲間と成功を目指し、苦境にも立ち向かった。

 その後、成功や失敗などいろいろな体験を重ね、人様の人生もそれなりに見てきて、縁あって塚本ファウンダーに出会い、Impress Watchの取締役に就任し、そして、転職支援の事業を始めた。
 求職者の方からアドバイスを求められることもある。「デキルヤツとして転職に成功するには何が必要ですか?」と、そんなときにはこう答えることにしている。

 自分の経験からは『志、能力、勇気、運』が必要だと思う。と。